学会設立記念講演会報告

群馬大学 飯島 睦美

 今回、学会設立記念講演会にお二人の先生にご登壇頂いた。基調講演者として、大阪医科大学LDセンタ―顧問の竹田契一先生、さらに本学会会長に就任された甲南女子大学准教授の村上加代子先生に、貴重な示唆を多く頂けることができた。ここではその講演内容 を簡単にまとめている。
 

基調講演:「LD/Dyslexiaの児童生徒の抱える特性と英語教育の課題」
講演者 :大阪医科大学LDセンター顧問 竹田 契一 先生

 まず、冒頭において、LDとDyslexiaの関係について、LDの教育的定義を含めて解説 があった。Dyslexiaとは、全般的な知的発達に遅れはないものの、読むと書くに特異的に 困難があらわれるものであり、中枢神経における何らかの機能障害が原因と推定されてい る、という。続く講演では、①聴く力の障害、②見る力の障害、③日本語の特性、④英語 の特性についてお話いただき、現在の英語教育へ貴重な示唆を頂いた。

①聴く力の障害
 Dyslexiaの要因の一つとして挙げられる聴覚情報処理の問題。聴覚情報処理障害とは、聴力は正常であるものの、音への気づきや聴覚的記憶の弱さが観察されるもの を指す。音韻意識は、読み書きの基礎として必須のものであり、音韻分解、同定、配列する能力が必要である。よって、日々の授業の中で、ことばをよく聴いて、音の並びや泊数、音の感覚を認識する練習が効果的である。

②見る力の障害
 文章を読む際、注視と衝動性眼球運動を交互に行っている。効率的な読みのためには、これらの正確で素早い動きが必須である。定型発達の学習者の場合、1単語を全単語処理するが、ディスレクシアの学習者の場合、一文字ずつ継次的処理をするので、より時間を要する。さらに、文字が歪んだり、二重になったり、動いたりするように見えるために、板書に困難があらわれる。

③日本語の特性
 日本語には、3種類の書記素―ひらがな、カタカナ、漢字-がある。前者二つが表音文字で漢字は表意文字である。日本語の難しさは単語間にスペースがないために、特にひらがなやカタカナのみの表記の場合、意味のまとまりが捉えにくく、読 みが遅くなる。日本語の音は、モーラが単位となっている。

④英語の特性
 文字と音の対応が1対1となっておらず、一つの文字が幾通りにも発音されることがある。また、アルファベット文字の形や音が類似しているものがあるために、混乱をおこしやすい。

これらのことを踏まえたうえで、以下のように英語教育に提言がなされた。
・日本語につまずきが顕著に顕れていない学習者でも、英語学習が開始するとともに、難しさが出てくる場合があることを教師は留意すべきである。
・音韻意識を育てることが重要である。
・暗記学習や繰り返し書く作業を強制的に求めることが効果的であるとは限らない。

 今回、発達障害・学習障害研究の第一人者である竹田契一先生から、理論に基づく貴重 な英語教育への提言を頂ける機会を得ることができ、全ての参加者は知識と技能を得るこ との大切さに気付くとともに、励まされ、教えることへのエールを頂けた。

 

英語教科教育のユニバーサルデザイン化に向けて -現状の課題と今後の方向性 ー
講演者:甲南女子大学 准教授 村上加代子先生

①不登校・引きこもりと学業不振の関係
 成人の引きこもり、不登校が社会的問題となっている今日、平成29年度に文科省 実施した調査によれば、全国で10万8999人の中学生が不登校の状態にあり、この数 値は過去最高ということである。さらに、隠れ不登校と考えられる中学生は23.6%に も上るという。不登校の原因として、36%の不登校生徒が学校での勉強についての悩 みをあげている。日本財団の2019年の調査によれば、高校生が自殺念慮を持つに至 った原因にも学業不振が関係していると報告している。子どもたちにとって、学校で の授業をいかにわかりやすいものにするかということが、不登校や引きこもりの防止 につながっていくのではないか、と提唱された。

②英語教育のユニバーサルデザイン化における課題と改善策
授業におけるユニバーサルデザインとは、目の前の学習者たち全員と対象として、 子どもの多様性、学び方の違いを理解して、そのニーズに柔軟に対応することが必要 である、という。ところが現状では、特別支援教育と教科教育のその両方の知識と指 導スキルを兼ね備えた教員が不在であることが指摘され、相互の専門知識とスキルを 学び合う機会、協働による指導改善また指導分担することの重要性が述べられた。

 最後に、学校教育はだれのものでもない、子どもたちのためのものであり、我々大人た ちが子どもたちのために互いに協力し合うことで、インクルーシブ社会の実現につながっ ていく、とまとめられた。
 いつもながら、軽快な口調でわかりやすくお話をいただき、この分野に初めて足を踏み 入れた参加者にとっても、とっつきやすく、理解し易かったものと考える。
 今後、本学会が周知されるにつれて、村上会長のもと、多くの多種多様な人々が集い、 ひいては多くの子どもたちの学びを支えられる環境が整っていくことを切に願っている。