当会は我が国の英語教育におけるユニバーサルデザイン教育の科学的研究を行うとともに,さまざまな個別の教育的ニーズのある児童生徒への英語教育の質的向上を図ることを目的とする。
 近年、インクルーシブ社会実現に向けた世界的な風を受け、次世代を担う子どもたちのためにその理念を実現するため、我が国においてもさまざまな法的整備等が導入されてきた。たとえば教育においては「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築の推進」(文科省, 2016)があげられる。「共生社会」とは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様なあり方を相互に認め合える全員参加型の社会である。障害者の権利に関する条約によれば、「インクルーシブ教育システム (inclusive education system)」とは、「障がいのある者と障がいのない者が共に学ぶ仕組みであり、障がいのある者が一般教育制度(general education system)から排除されないことが必要」とされている。そうした社会のあり方は、学校教育全体で、個々の授業においても実現していくことが求められている。
 平成25 年12 月、初等中等教育段階からのグローバル化に対応した教育環境作りを進めるため,小中高等学校を通じた英語教育改革を計画的に進めるための「英語教育改革実施計画」が公表された。初等中等教育段階からのグローバル化に対応した教育環境作りを進めるため、平成29 年度に改訂された学習指導要領では、小学校高学年での外国語科の教科化が決定した。中学校、高校でのさらに高度な英語活動も盛り込まれ、小中高の連携がこれまで以上に求められることになることは必至であろう。一方で、学年が上がるにつれて学習意欲が低下する課題、特に「英語嫌い」の学習者を小学校から生んでしまうのではないかという懸念は払拭されないままである。さらに、新学習指導要領では、全ての教科で障害のある児童生徒の困難さに応じた指導内容や方法の工夫を行うことが記載された。これによって特別支援教育のニーズ把握や指導の取り組みは全学校種、全科目での課題となり、その指針に基づいたひとり一人の学習の困難さに対応することが強く求められている。多様な子どものニーズに的確に答えていくためには、すべての教員が、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められており、特に発達障害に関する一定の知識・技能は、発達障害の可能性のある児童生徒の多くが通常の学級に在籍していることからも必須であるとされる。
 グローバル化が進む社会に巣立っていく子どもたちにとって、英語はコミュニケーションツールとして大きな可能性を秘めている。その学びの機会はどの学習者にも保障されなくてはならない。学びの多様性という観点からは、ひとり一人の学び方や興味関心、得意・不得意は異なっていることが自然であり、画一的な「通常」の授業や指導に合わないことが、通常学級からの排除や「落ちこぼし」の理由にはなってはならない。多様な学習者が学ぶ教育現場であるからこそ、多様な知見を広く協同的に活用した授業をデザインし、きめ細かな教育を展開することがより一層求められている。
 ユニバーサルデザインを目指す教育では、個別の教育的ニーズのある児童生徒への支援と同時に、いかにこれらの児童生徒が抱える学習上の困難を予測し、カリキュラムや授業設計の段階で躓きを回避(prevention)できるかが大きな鍵となるだろう。そのために、まず学習者に関する実態の調査・把握を通して、教育現場が直面している課題を明らかにしていかねばならない。そして言語教育、特別支援教育、心理学をはじめとする諸領域の知見を、補足的・協働的・そして整合的に体系化し、いかに理論に裏打ちされたインクルーシブな英語教育の指導実践を行うことができるかが今後の課題である。さらに、公正な評価のあり方、合理的配慮、ICT の活用に関する理論に基づく実践研究も不可欠である。
 上記の目的を達成するために、このような行動の母体となる学術団体として、「英語教育ユニバーサルデザイン研究学会」(Association of Universal Design for English Language Learning:AUDELL)をここに設立するものである。
 英語教育ユニバーサルデザイン研究学会設立準備委員会一同

2019 年6 月
参照:文部科学省(2016)「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)概要」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321668.htm