2020年度第1回研究会に参加された皆様からの質問に、講師の先生がお答え下さいました。

1.阿部志乃先生
2.加藤拓由先生
3.淡路佳昌先生
4.齋藤理一郎先生

1. 阿部志乃先生への質問「マイネーム・プロジェクトー『自律した学習者』と『将来につながる外国語学習』を目指した小学校の実践」

発表中にご紹介のあったワークシートについて詳しく教えて頂きたいです。

授業で使用しているワークシートは「visual organizer」または「graphic organizer」のものを参考にアレンジして使用しています。検索していただけるとたくさん情報が出てくると思います。
また日本では「シンキング・ツール」という名前で関西大学の黒上晴夫先生が取り組まれているものがあります。

このプロジェクトンにかけた時間を教えて下さい。m(_ _)m

2019年度は先ほどお見せした通りです。
例年、子どもたちに合わせて時間は微調整しておりますが、ステップを4つに分けて、それぞれ最短で2時間で実施はできると思います。
2018年度は文字に意識を向ける活動で2時間、名前に意識を向ける活動で2時間、調べ学習で3時間、作品作りで2時間でした。プロジェクト学習は週に1時間(1コマ)で実施しています。授業外の時間の子どもたちの自主活動も必要でした(宿題とはしませんでしたが、やりたい子たちは、例えば休み時間や放課後、自宅での調べ学習は行っています)。

子どもたちの最後の「ふりかえりシート」の中のコメントで、特に印象的だったものを教えてください。

先ほどお話し忘れましたが、振り返りの中にもいましたが、自主学習として、自分でこっそり「ロゼッタ・ストーン」の解読にチャレンジしていた子どもがいました。自分自身で課題を見つけてチャレンジしていっていることを知ったのは、嬉しかったです。

調べ学習のとき、子どもたちの求める情報が載っている資料が図書館にあるのかどうか、資料の数がグループの人数分あるのだろうか、それを確認するのにすごく時間がかかってしまいます。どのようにしていますか?

最初にこのプロジェクトを行ったときは、図書室の資料の確認もせずに始めたのですが、先ほどご紹介した技術評論社の「ずかん文字」がたまたまあって、それをみんなが使っていたので、次年度は他の図書館から借りてきて準備しました。
学校に司書の先生がいらっしゃればご相談するのがいいと思いますが、公立図書館の貸し出し利用、また、どの本がどう子どもたちの役に立つかは、子どもに実際に手に取らせないとわかりません。大人が良いだろう、と持って揃えても子どもは見向きもしなかったり、「それ無理じゃない?」という難しい専門書が大人気だったりします。
本の数が少なければ、少ない資料をどう「仲良く」共有するか、子どもたち自身で考えるきっかけにもなると思います。

活動に消極的な児童はいましたか?また、その場合、どのような対応をされましたか?

最初の活動でもあるタルタリアン・タブレットにおいては、(2014年度から毎年行ってきていますが)今まで消極的な児童はいませんでした。最初の導入の教材としては非常にインパクトもあり、みんなが調べたくなる、そういう魅力があると思います。そして最初の活動で子どもたちが「自由に考えてやっていいんだ」とわかると、後は見守るだけで子どもたちなりに活動を始めています。
ただ、中には、自分が何をしたらいいのかが分からない、という子どもがいます。そういう場合でも、基本はその子の活動を見守り、何か困っていることがあるのであればさりげなく助ける、というスタンスです。

子どもによって調べる力に差はありましたか?
どんな支援をされましたか?

このような調べ学習の初段階では、①「情報が載っていそうな本」がある本棚に行くこと、②「情報が載っている本」を見つけ出すこと、③「情報が書かれているページを開く」こと、④「情報が書かれている箇所」をページの中から見つけ出すこと、という段階があると感じています。
最初の①情報が載っていそうな本が並んでいる本棚に行くためには、本に親しみがある子、つまりよく図書館に行っていたり本を自分で選んで読んでいる子は有利だと思います。
ということで、小学校現場での支援としては、図書室によく連れて行く、実際に本棚を見る経験、本棚から本を取り出して開く経験をさせる。そのためには「たくさんの本を開いてでも調べたい」という機会を与えることかな、と思います。

グループ活動をしている時に一番いい人数はどれくらいだと思われますか。
多すぎるとお友達に頼りっきりになってしまう児童も出てくるのかという懸念があります。この活動では一人ひとりが取り組みたいと思うので、そういう心配は起こらないかも知れませんが・・・

最適なのは3人だと思います。
調べ学習をグループで、というのは子どもたちそれぞれの好みや方法が分かれてきますので、同じ興味を持ったもの同士で協力して行う、というふうにグループもゆるく決めておく、という方法が良いかな、と思います。中には「一人で集中して取り組みたい」子どももいます。
教員側の狙いが「協働活動を経験させる」のであれば、発表や作品づくりなど、最終的なゴールがあるものに対してできるだけグループで活動するように促し、うまくいかない場合があっても、私自身は「うまくいかないことを見守る」というスタンスです。

言語への目覚めの動物のワークシートはどこかにございますか。

このワークシートは立命館大学の大山万容先生からご紹介いただきました。言語の目覚め活動に関しても様々に情報をいただておりますが、詳しくは先生のご著書でもある『言語への目覚め活動 ―複言語主義に基づく教授法』があります。
「言語への目覚め活動」に関して、吉島茂先生(東京大学名誉教授)は、“外国語教育との関係だけでなく、母語教育をも含めた言語教育そのものを支える基礎能力を育むもの”であり、“イギリスの Eric Hawkins が 1974年に英語以外の言語を背景にもつ生徒の学習を援助するために、またイギリス人の生徒の母語能力の低下を目にし、「言語的偏狭と先入見」「未知のものへの不安と恐怖の生成」と戦うために出した「言語の気づき Language awareness」の主張に端を発します。”と述べられています。EOLEについてお調べいただきますと、情報が数多くありますし、私も大変に興味深く思っています。

冒頭で、しかけを作るのがとても楽しいと仰ってましたが、メインになる問いでの素材(タルタリアンタブレットのうようなもの)は毎年変えられたりするのですか?(こちらの活動は何年くらい継続されているのですか?)

この活動は2014年度から毎年4年生で実施してきました。導入のTartarian Tablet、名前探しのNarmer Paletteは当初から変わりません。名前探しは他にもKushimは面白い例だと思っています(興味があったら検索してみてください)。次につなげる文字を「ヒエログリフ 」にしたいのであればNarmerを、楔形文字にしたいのであればKushimを、とその年によって選んでいました。最近は、アルファベット の文字の音(フォニックス )と繋げることができるため、Narmer→ヒエログリフ の流れが固定しています。

現在のコロナ禍で、グループ活動、調べ学習はどのようにしていますか?

現在、絶賛試行錯誤で実施中です。また情報をどこかで共有できる機会があればいいな、と思っています。

 

 

2. 加藤拓由先生への質問 「あらためて考える、小学校外国語の意義」

① 外国語が英語だけではないことをどのように意識させますか

教師が教えようとしなくても、子どもはすでに自分と異なる世界に興味津々のはずです。特別に意識させるというよりも、様々な教科・領域で、世界の国や言語・文化について、教師がお話しすればよいのではないでしょうか?子ども達は、先生が楽しそうに話すことは、いっそう興味を持って聞こうとします。ただ、児童の発達段階や学習のレディネスをしっかり意識しましょう。大人の思いを押し付けることのないように、子どもが興味を持てるよう「環境調整」することこそが、教師の腕の見せ所です。

② なぜ、小学校で外国語を勉強するの?子供たちからの問いに何と答えるのが良いのでしょう?

「なんでだろうね・・・。」と笑いながら答えればよいのではないでしょうか。教師は、自戒の念を含めて言いますが、どうしても「教えよう」としてしまいます。先生という職業の性(さが)です。教えるのをやめてみまませんか?だって、この答えは、いくつもあるのではないでしょうか?

子どもに「調べてみてごらん」と言いましょう。きっと、家庭学習で調べてきます。そしたら「教えて」と言いましょう。きっと、得意げに教えてくれます。他の児童もそれを見て「すげ~。」と言います。調べた児童は、さらに調べようとするでしょう。これを、教師が答えたら・・・・。

③ 今年度から外国語学習が本格化しましたが、6年生では,これまでの積み上げができていない現実があります。

この2年間くらいは、特に「積み上げが不十分である」という意識が重要であると思います。3年生からの内容を十分に学習した状況になるまでは、積み上げができていないのが当然であるという前提のもとで、必要であれば、前学年の内容に戻って学び直すことも大切ではないでしょうか。小学校英語は「漆塗り」の器です。塗ったかどうかわからないほど薄い膜ですが、何度も、何度も、塗り重ねることで、素晴らしい光沢が生まれます。

④ ポインティングゲームのいろいろなバージョン、初めて知りました。ありがとうございました。他にも簡単に新出の単語の練習の仕方がありましたら教えてください。

ご紹介させて頂いた、ポインティングゲームのバージョンは、実は、キーワードゲームなどにも応用が可能なものもあります。大切なのは、「その活動を何のためにするのか」「その活動でどんな力を付けたいのか」を意識しながら進めることではないかと思っています。

それから、単に「新出単語を練習する」という概念から「新出単語を使ってみる」という考え方に変えませんか?小学生は、意味のある場面の中で、実際に使ってみることでことばを獲得するのではないでしょうか。

⑤ 中学校に向けて,これだけはと言うものはある出でしょうか?

ありがとうございます。講座でもお話しましたが、小中の教科書を、ぜひ、小中の先生が「一緒に」研究していただきたいです。片方だけではだめです。

小学校の先生は、中学校の教科書を見て「中学校でこれだけの内容をやるのなら、小学校でもしっかり取り組まねば・・・。」と感じていただきたいです。反対に、中学校の先生方にも、「小学校で、すでにこんな表現を学んでいるんだ・・・」ということを知って、中学校の授業を再構成していただきたいのです。特に、中学校の新しい教科書では爆発的に語彙が増えます。小学校で児童がどんなふうに語彙を獲得しているのかを知ることは、中学校の英語の語彙指導にとって極めて重要です。

⑥ アルファベット学習もさることながら、ローマ字学習の現状について加藤先生はどのようにお考えでしょうか。中学生になってもギャップを感じている生徒がいます。

ローマ字に関しては、メリット・デメリット双方ありますが、あまりデメリットに注目しすぎないことが重要だと考えます。(ローマ字はあくまでも日本語を書き表す、国語の学習事項であるからです)

一方で、ローマ字が子音+母音で成り立っていることを知っていれば、pigなどの簡単な3文字単語の音の認識にはかなり有効であると思います。

東京書籍のHPには、村上先生が監修された『魔法のアルファベット練習帳ノート』https://www.tokyo-shoseki.co.jp/materials/e/13/1296/があります。文字指導のエントリーにはきわめて有効です。また、ローマ字と外国語活動の結びつきに関しては、正進社から出ている『ローマ字練習帳』が参考になります。(こちらは市販されていません。学校に出入りしている教材屋さんにお尋ねください)

⑦ 指導要領の(ア)から(イ)へのギャップ。現在,小3のローマ字指導中です。今年は,時間が不足の中で,捻出しているところです。今日は,アイデアをいただきありがとうございました。

⑥ の答えを参照下さい。

⑧ 家庭学習がなかなか進まない子どもに対して何か学習のヒントはありますか?

どうか家庭学習を押し付けることをしないでください。自分でやりたいものをさせてあげてください。大人の仕事は、やりたくなるような環境を整えることです。お家の人が、テレビを見るのをやめて、外国の映画など見ていたら、子どもも自然と興味を持つのではないでしょうか?
学校の宿題で家庭学習を出すなら、「音聴」(おんちょう)がおすすめです。国語でやる「音読」の英語版です。とにかく外国語学習の初期は、音を十分に聞くことが大切です。新しい英語の教科書にはQRコードがついています。これを使って、英語を聞かせてあげてください。「何回聞かせるのですか?」それは、子どもに任せればいいのではないですか。大人が押し付ける家庭学習ではなく、子ども自身が取り組むものにしていきませんか?

⑨ 書く指導に苦労しています。スペースの開け方がなかなか定着しません。いい方法を教えてください。

小学校英語での書く指導に関しては、「時間がかかる」「間違える」ということを、頭に入れてください。これまで中学校で週に4時間~5時間指導をしてきても、中3になって、正しく書けない生徒がたくさんいます。小学校で、週に2時間あるかないかの指導で、そんなに簡単に書けるようになるわけがありません。私たちが、週に2回アラビア語の練習をして、アラビア語を間違いなく書けるようになるかどうかということです。

英語の書きかたの指導法に関しては、講座でご紹介した手島良先生の「これからの英語の文字指導」(研究社)をぜひご覧ください。素晴らしい方法が複数紹介されています。

⑩ 英語に対する苦手意識が高い児童が多い(クラス)の場合、
「ドリル的活動」と「言語活動」の比重をどのようにコントロールされていますか。

まず、「ドリル活動=簡単で取り組みやすい」「言語活動=難しくてわかりにくい」という概念を捨てましょう。ドリル的活動でも、ルールが複雑で、わからなくてパニックになる児童がたくさんいます。外国語活動のゲームで、よくケンカが起きるということを耳にしたことがありませんか?逆に、本当に言いたいことをやりとりするような言語活動で、英語の苦手な児童が喜んで取りくむ姿を見ることがあります。要は、活動の「やりかた」ではなく「ありかた」なのです。「この活動、本当に児童が伝えあいたいと思う活動かどうか?」と考えてみることが大切ではないでしょうか?

⑪ 中学校1年生で、読み書きのリテラシーを細かくステップを踏んで教えています。文字の形や音などについても最初からやり直す必要があります。2年くらいかけて、何とか学級のすべての生徒が「英語が分かる」「楽しい」と思えるようにしていきます。小学校では、フォニックス意識のある読み物をたくさん読ませるような取り組みはあるのでしょうか。

すてきな取り組み、ありがとうございます。中1で、このような実践をしていただけると、どれだけたくさんの生徒が救われることでしょう。自戒の念を込めて、書いています。

小学校ではあまり「フォニックス」と銘打って指導することはありませんが、「初めの音が違うのはどれかな?」とか「終わりの音が似ていることばに気を付けて読んでみよう」など、音と文字のつながりの感覚を育てるような活動は教科書で紹介されています。実際の授業でどれくらいきちんと教えられているかどうかは未知数です。(時数的に省略されてしまうことが多いように感じます)

⑫ 単語は聞いていても書いてないので残っていません。いかに書く活動を保証しますか

「単語は書いて覚えるものか?」まず、その問いから考えてみませんか?これまでの中学校以降の英語教育では、単語や英文を何度も、何度もノートに書いて覚えるような学習をさせてきました。確かに、何度も書くことで定着する生徒もいますが、何度書いても覚えられない生徒もいるのではないでしょうか。書かれた英語を、音声化することができれば、少しずつ「読める」ようになるはずです。また、少しずつ読めるようになった音声を文字と結び付ける指導をすれば、聞いた音を文字に表す「書く」ことができるようになるはずです。このような文字と音の結びつきを学ぶには、相当の時間がかかるのです。小学校で、たったの週に2時間。しかも、その中で書くことの指導に使えるのはごく一部です。

⑬ 中学教科書を見てないのですが、もうアルファベットの指導はないと聞きました。ずばり、フォニックスの音韻指導と、アルファベットの書く活動、どちらが大切だとお感じですか?

まずは、ぜひ中学校の教科書をご覧ください。中1の1学期最初には、相当な時間をかけて小学校の学びを振り返るページが用意されています。中学校の先生方は、これらのページを使って、上手に中学校の学びへいざなってくれるでしょう。

ご質問の答えとしては「どちらも重要」です。講座でもお話しさせて頂いたように、小学校では、アルファベットの大文字・小文字をきちんと読み書きできるようにしなければなりません。そのうえで、中学校では、英語のエキスパートの先生がフォニックスなどを使った指導を間違いなくしてくださるはずです。小学校・中学校、それぞれの役割を連携しながら進めることが重要です。

⑭ 英語学習の最初に、例えばMy name is Hanako.と習いますが、実は日本語の音と英語の音を、同じアルファベットで表現していることを、どう子供達に気づかせてあげたら良いでしょうか?
ローマ字と英語の音と文字の混同を避けてあげたいのですが。
気づかせてあげたら良いでしょうか?

ローマ字とアルファベットの混同については質問⑥の答えをご覧ください。

基本的な考えとして、ローマ字はあくまでも国語教育の範疇であり、国語教育の中でHanakoが日本語であり、日本語の音をアルファベットを使って書き表したものであるということを指導すべきです。

一方、外国語ではMy name is Hanako.という表現を何度も、何度も音声でやり取りして、十分慣れ親しんだ上で、nameという単語を見た時に「ヌゥ・エィ・ム」と読めるように指導すればよいのではないでしょうか。

⑮ 先程の質問に関連して、新しい教科書では、リスニング教材がレベルアップしたがどのように扱えば良いでしょうか。

「リスニング教材がレベルアップした」というのは、「聞かせる量や内容が多くなった」と考えればよろしいでしょうか。

もし、そうだとすれば、以前とはリスニングの目的が違ってきたのです。例えば、What color do you like, Saori? I like pink. という英語を聞いて「さおりの好きな色は何色ですか?」のようなリスニングの課題であれば、pinkだけを聞き取ることができればよかったのです。しかし、今は、そのような部分の聞き取りだけではなく、全体をざっくり聞いて、大切な情報だけを選んで聞き取るようなリスニングに目的が違ってきたのです。

そのためには、リスニングの指導だけを単体で考えるのではなく、先生の話す英語をざっくり聞いて内容をつかむSmall Talkのような活動を、授業の中で繰り返し行い、そのような聞き方に慣れさせる必要があります。つまり、聞く活動だけで身に着けさせるのではなく、外国語の言語活動全体を通して指導すべきではないでしょうか。

 

 

3. 淡路佳昌先生への質問 「フィンランド、素顔の教育事情」

フィンランドの小学校では、週何時間英語学習がありますか?また、読み書き等どのようなバランスでしょうか?

2019年度までの学習指導要領では、第一外国語については3〜6年生で合計9単位(1単位は38週分の授業)が配当されていますが、これを具体的にどう配分するかは各学校に任されています。ならして概算すると、週あたり2.5〜3時間分の授業になります。

扱うスキルのバランスですが、学年が進むにつれて読むこと・書くことの配分も増えていくように見受けられました。

フィンランドの教育で日本に一番参考になる部分は何だと思いますか

クラスサイズの問題はさておき、授業でやっていること自体は別に派手なものことも特別なこともしていないので、基本を押さえた指導技術と、しっかりした英語力はまず見習うべきものがあると感じました。

そのような教師を養成する教員養成システムについては大いに学ぶべきところがあると思います。このあたり、福田誠治『フィンランドは教師の育て方がすごい』に詳しいです。

小学校でごく自然に教員と補助員の方がインクルーシブに授業を進めている印象です。どのように教員や補助員の方は、このようなスキルを身につけているのでしょうか?

インクルーシブ教育については、教員養成課程の中でしっかり位置づけられ、授業も開講されているようでした。補助員がどのような条件で採用されているかについては未確認です。

中学校段階で音読での発音がしっかりしているとのことでしたが、低学年の入門期にフォニックスを取り入れているかどうかはお判りでしょうか?

私が参観した数時間の授業では特に明示的な指導は見られませんでした。教材に出ている語を見ると、ある程度規則性に意識が向けやすい配慮はしてあるように見受けられました。

教科担当とクラス担当の免許が別であるのは驚きました。その分、より丁寧に、それぞれの生徒に対応しつつ、クラス全体の授業も進められます。インクルーシブ、ユニバーサルな授業のヒントがここにあるように感じます。

私はClass Teacherの課程にはあまり接触がありませんでしたが、恐らくそこで特別支援に関する科目がかなり用意されているのだと思われます。日本ではこの両方の業務(プラス、部活や保護者対応など)を一手に引き受けていますが、教師の負荷軽減や分散のヒントになりそうな制度設計でした。

英語教育と関連がないのですが、これほどまでにフィンランド社会にどっぷりとつかった淡路先生は、サウナにはまったりしませんでしたか。

いや、どっぷりはまってました。アパートにもサウナがあって、週に二回はそこで入れるのですが、それ以外にも公衆サウナに足繁く出掛けていきました。今は、サウナロス状態です。自宅の庭に建てます💪

①抜き出しの特別支援ですが、他の外国の学校で見学した時でもきめ細かな支援が印象にのこっています。フィンランドでは、抜き出しの特別支援用の部屋があるのでしょうか?またやはり日本と異なり、特別支援クラスの担当の先生以外に、授業で支援したり抜き出し指導をする先生が別にいらっしゃる、ということでしょうか?そうならば何人くらいでしょうか?
②教育実習はすみません、聞き洩らしたかもなのですが、やはり日本より長いでしょうか?どれくらいかお教えください。

①については、抜き出し指導の場面を直にみた附属学校にはそのような部屋(というかオフィスのようなが用意されていて、専門のスタッフも常駐していました。
②については、3年目以降の学生が選んだ年度1年間の取り組みになっていました。大学の授業と実習との往復で、実習校での実習は前期と後期の二度に分けて行われていました。
実習については、時間もさることながら、すべての実習生を、きちんとした指導力とガイダンスを受けた指導教員が面倒見るという体制が素晴らしいと思いました。

アメリカでは、例えば、前半にベースとなる集団指導と、個別に生徒の進度に合わせたプリント教材授業などが、一つの授業の中で合わさっているところもありますが、フィンランドでは何か面白かった授業システムはありましたか?

日本でよく見受けられるような、ベースとなる指導なしで、むやみにグループやペアで活動させるということはないと感じました。
興味深かったのは、恥ずかしがり屋で引っ込み思案という、日本人と共通する性質を持つとよく言われるフィンランド人も、ペアでの学び合い・助け合いになると、知らないことを恥と感じていないように見受けられました。
なので、仲間と協働する学び合いがうまく機能しているんだなと思いました。これは、自分がフィンランド語の授業を受講していても感じたことですので、必ずしもフィンランド人特有ではありませんが、逆に日本人にとても根強い傾向なのだなと思いました。

フィンランドでは、助けが必要な生徒に「バイト」の方がつくのが興味深かったです。カナダでは(まだ実体験はしていないですが、話を聞く限り)教室に専門の人がはいるとききました。日本の保育園の加配もただのバイトのおばさんたちで、びっくりです。話しかけ方などをみていると、やはり特別な研修などがひつようなのではと考えてしまいます。

私が実際にお目にかかったのは、市民のボランティアでしたが、専門的なスキルを持っている方もいると思います。このあたり、私の知見はかなり限定的ですし、自治体によって事情は異なると思います。

学校での学習時間は日本より多くない感じがしますが、教科書はかなりの量ですね。音読、オーラル、暗記、どのようなバランスで扱ったらそのようなハイレベルな英語力が身についていくのでしょうか。

今回の研究期間では、そこまで突き止めるには時間が足りませんでした。是非数年後に再訪して、今度は英語授業に密着して観察したいと思います。
もともと、読書が非常に根付いている社会なので、ものを読むことには抵抗がなく、慣れているという背景もあるので、多くのものを読み、それについて書いたり、意見を述べたりするという活動が多いようでした。

 

 

4. 齋藤理一郎先生への質問 「高校英語のユニバーサルデザイン」

高校は適格者主義でユニバーサルデザインが入りにくいと考えますが、工夫はありますか。

発表の際には「適格者主義」ということばを知らず、失礼しました。「高等学校の教育課程を履修できる見込みのない者をも入学させることは適当でない」という文部省初等中等教育局長の通知は、1963年のものであり、その後の少子化や、後期中等教育への進学率の向上、そして2007年度からの「あらゆる校種での特別支援教育」のスタートなどで、「適格者主義」の主張は薄まっているように思います。実際、高校でも、(これは英語に限らず)「教室で困っている生徒・授業についていけずに退学していく生徒」に対するアプローチは、概念的にも具体的支援でも、ここ10数年で充実しているのではないでしょうか。もっとも、相変わらず現場では、「あの生徒は、ダメだ(能力が足りない・意欲が見えない)」のことばは聞こえてきます。そんなときには、ユニバーサルデザインの授業の工夫での成果を、情報交換するのが効果的なのかな。かつて、「教員が困っている生徒は、実は生徒自身が困っている」というフレーズがよく聞かれましたが、「困っている生徒をどうしたらいいか、教員が困っている」のも事実です。そんな先生方へのUD啓発は、職場で隣の机の先生同士の会話から始まるのでしょう。

入学時点での学習到達度の差が大きいのも高校の特徴かと思いますが、フォニックス指導は1授業時間を使ってすべての生徒に対して行っていますか?扱う素材は教科書の本文などから探していますか、フォニックス用の別教材を準備していますか?

最初の授業で、「わたしは英語は読みません・書きません」のアピールをする生徒に、フォニックス指導を通して、「単語の読みの自分ルール」を探す旅に出てもらいます。これで、何人かの生徒でも「英語の音と文字」に興味を持ってくれると、だんだん、クラス全体が単語を声に出すのを試すようになり、様々な活動のきっかけになります。その後の授業は、ウォーミングアップにフォニックスを使って、その後の活動が盛り上がる雰囲気を作ります。教材は、リヴォルヴ学校教育研究所の「英単語カレンダー」を使っています。

逐語訳ではなく全体の構成をつかませるときに、生徒との対話はどのようなものになるのでしょうか。語彙が少ない生徒に対して新出語句や「どんな文法が使われている?」といった問いは難しいのではないかと疑問に思いました。

本文の大まかな内容を尋ねるワークシートを用いて、クラス全体に投げかけます。特に個別に答えさせることはなく、教室の中から聞こえる小さなつぶやきを、教員がアンプのように増幅して、全体の理解を浸透させていきます。本文の構成は板書一枚に収めるので、あとでボードを写真に撮れば、把握できるようにしています。文法的な表現は、さらっと「こういうこと」と添えて流してしまい、文法学習は、内容理解とは別立てで行います。内容と文法を同時に触れて、、生徒を混乱させないための工夫です。

だいたい一クラス何人くらいで授業をなさっていて、また個人差などもあるかと思うのですが、個別対応等含めどこまで、どのように対応されているかお聞かせいただけましたらと思います。

1クラスは10~20人です。1コマ90分の授業で、一つの活動については、教員の指示を5~10分でひと塊になる構成にして、その倍の時間を生徒の作業時間に割り当てます。この時に教室内を巡回して、個別対応の時間に充てます。

中学校で基礎が身についていない生徒もいると思いますが、一斉授業の中でどのような工夫が有効だと感じられますか?

入学者は、中学までの学習内容は、どこかに置いてきてしまったという前提で、学び直しから授業を始めます。ただ、小中の焼き直しでは、高校生のプライドが許さないので、高校生の思考や嗜好や興味・関心に見合った教材の提示を心がけます。授業を重ねるうちに、生徒のプライド(虚勢?)が崩れてくると、ちょっと子どもっぽい遊びでの定着をねらっても取り組んでくれるようになるのが楽しい。