2019年度 研究大会へのご参加、ありがとうございました。

登壇者へたくさんのご質問をいただきました。皆様のご質問の内容の鋭さは、そのまま目の前の学習者をどうにかフォローしたいという思いに比例する、と思いました。ありがとうございました。
いただきましたご質問について、各講演者の先生より大変にご多忙のなか、こんなにも迅速にご回答いただきました。未熟な司会者の無茶ぶりにも関わらず、参加者の皆さまのことを第一に考えて下さり、心より感謝申し上げます。
なお、類似のご質問はまとめてご回答させていただいておりますので、ご了承くださいませ。


村上加代子 先生

合計22枚の質問を頂きました。その中から、すみませんが、いくつか選んで回答させていただきました。

1.インクルーシブな学びの環境を作るとき、「英語がとてもできる子」への配慮も必要。「ゆっくりな生徒」への丁寧な指導をする際、できる子たちにはどんな風に指導するのが良いか。

回答:会場でも多くの提案がされたと思います。そもそも「できない子」が一概に「ゆっくりな子」というわけでもありませんね。まず、「今の先生のやり方でついていけている(良くできる子)と、そのやり方やペースではついてこれないしんどい子」がいるということでしょうか。だとすると、ペースダウンするだけでは、不十分ですね。確かにゆっくりな生徒はいますが、何がゆっくりなのでしょう。十分な練習時間がないのでしょうか。口頭説明では理解するのが難しいのでしょうか。思い出すのが時間がかかるのでしょうか。いろいろなのでここでは一般的なお答えになります。

わたし自身、活動はいくつかに分類でき、その中でも「得意な子」「不得意な子」がバラバラだと感じています。つまり、読み、書き、発表、リスニング、グループワークなど、それぞれで「良くできる子」「苦手な子」がいるはずです。また「どれも全部苦手な子」というのもいるかもしれませんが、いずれも得意不得意があるはずです。「できる子」という固定イメージでくくるのではなく、どんな活動のどういうところで時間がかかったり、誤りが多くなるのかということを生徒ごとに把握して見ることが大切です。

・「学び合い」はグループワークでとても有効です。お互いの理解を深め合うだけでなく、多様な意見を交換することにより自尊感情も生まれます。文法の答え合わせなどはわたしはグループでやらせます。それも「なぜその答えにしたかを全員でよく考えて決めること」とし、発表する際は、答えだけでなく、それを選んだ理由もつけさせます。グループワークで文法をするときは辞書も何でも使って良いことにします。他のグループの説明にもとても耳を向けるようになります。

・複数のワークを用意するのが大変効果があります。一律に同じ内容のものをさせるから、「それ以上」と「それ以下」が出ます。どの子にどのレベルの問題が合うかな、と想像しながら準備をしておくと、とても使いやすいです。全体説明は全員に(特に、落ちこぼしが気になる生徒にも)わかるような配慮を丁寧にし、その後の練習課題に差をつける(基礎、発展など)ことはすぐにできます。

 

2.ひとり一人の生徒のニーズに対応すると大変な労力と時間がかかります。授業準備方法があれば教えて頂きたいです。

上で述べたような「ワークシートの選択肢」は、わたしは一人で作りましたが、年間を通して英語教科教員が、少しずつストックしていくのが良いかと思います。そうすると、翌年はそれを使い回せたり、改善できますよね。

 

3.現在の英語の課題となると、音韻認識が一番になるのでしょうか?フォニックス指導の大切さはわかりましたが、どれくらい研究として取り組まれているのだろう、学校でも取り組まれているのだろうと思いました。

 課題は多くあると思いますが、「空白地帯」を作っているのは、音韻認識とデコーディング指導の不足だろうとわたしは考えています。民間では30年以上前から指導されてきたフォニックスですが、学校ではここ数年間ほどで着目されています。ですが、講演でも述べたように、読み書きというのはとても長期的に育てて行く技能です。フォニックスの役割は、初歩的な音韻と文字の対応を手助けする部分を担っています。その次の段階があり、その前の段階があります。そうしたことも理解せず、「単語が読めないからフォニックスを導入しよう」と無計画に指導をしても、「フォニックスをしたけれど、うまく結果がでないです」という自治体や学校が出てきても不思議ではないかな、と思います。

フォニックスに関する研究はciniiを検索されると増えてきているのが分かるでしょう。また、小学校英語教育学会や、日本児童英語教育学会などでもよく発表されているテーマの一つかと思います。いっぽう、音韻認識指導に関しては、わたしのセミナーを受けて下さった方や、DVD(『英語教育のユニバーサルデザインDVDシリーズ英語の音韻認識アクティビティ』などを参考に取り組んでおられる先生方はいらっしゃいます。ですが、日本に教材そのものが少ないため、広がっているというところまでは至っていません。

 

4.段階的な「音から文字」の育成として、指導要領の中で小学校ではどのように段階的な育成を盛り込んで行けばいいですか。

指導要領では音から文字の体系的な指導についてはほとんど触れられておらず、慣れしたしめば身につくのかな、くらいにしか捉えられていないと感じています。ですが講演会でお見せしたように、英語圏児童でも音韻認識の獲得は個人差が大きいため学校で明示的指導を行っています。日本の児童にも、折に触れて英語の音韻単位に気づく時間があれば、中学校での単語の読み書きにもつながるでしょう。

音韻認識指導で一番大切なのは、「単語よりも小さい単位の音があるんだ」という気づきを得ることと、「音を足したり、入れ替えたりできるんだ」という操作のスキルを身につけることです。

3−4年生であれば、語彙をたくさん練習しますね。また、歌も歌うでしょう。そのときに、音節のリズム(母音が一つで1音節でしたね)で手を叩いたり、体をタッチしたり、マラカスを振るといった動作と一緒に、発音の練習をするだけでも違います。

5−6年生は、カードを頭と胴体に切るような練習をして「音素」に気づかせ、入れ替え活動をすると音素の意識も高まります。DVD(『英語教育のユニバーサルデザインDVDシリーズ英語の音韻認識アクティビティ』は、そういう「音遊び」がたくさん紹介されています。

 

5.この子は学習障害ではないか、というぎりぎりの生徒をたくさん見ています。専門家でもないわたしが保護者の方に指摘することもできず、認知的な能力に多少なりとも問題があるのなら、事実を知った法が、本人にも保護者にも対処する助けになるのでは?他の子と同じやり方で続けても無意味になるのではと色々考えています。

たしかに診断があると、先生は心強いかも知れませんね。でも親御さんもそれぞれなのです。むしろ逆にパニックを起こして子どもを否定する方もいます。また、診断書が何か良いことをしてくれるわけでもありません。

そもそも、教育現場においては、「診断のあるなしにかかわらず個別の教育ニーズに対応する」ことは、当たり前のことです。ところで、診断があったら、対応が何か変りますか。もし「このお子さん、皆と一緒にするのはしんどそうだな」とすでに先生が気づかれているのなら、「しんどくない方法」に変更するのが大切ですよね。すぐにできるのではないですか?それとも、支援者として関わっておられるのでしょうか。学校を巡回してこられる専門の先生に授業をみてもらうのも一つだと思います。授業の違うやり方を提案してもらい、そこで協働できれば新しい選択肢も見つかるでしょう。

障害は、環境が作る、と講演会で言いました。その子の障害は、「皆と同じにする」のが当たり前だと思う保護者や先生が作っているのかも知れません。子どもを一人の人として見たときに、その子の素敵なところ、よく頑張っているところ、そういうところが社会で輝くように大切にしたいですね。「皆と一緒にできないこと」が社会から落ちこぼれるような環境にしてはいけないのです。それは、インクルーシブ社会とは真逆にありますよね。

また、保護者との話し合いや合理的配慮については、先生が一人で決定する問題ではないかと思います。教員全体で同じ対応(良くないのは、A先生はしてくれるけどB先生はしてくれない)をするためには職員会議や研修などで知識の共有を図るなどの機会が重要でしょう。

 

6.音韻認識の指導をしてみようとしたが、他の担当者に理解してもらうことが難しく途中で終わってしまった。

成果を見せることが一番説得力があるだろうと思います。音韻認識の音節指導はスペリング指導と一緒にすると、いいですよ。また、音素認識指導は、トランプを使った置き換え練習から、スペリングに結びつけることができますね。小学生とは違うため、すぐに教科書の単語に直結できるような活動にしていく工夫が必要かも知れませんね。ちなみに音韻認識をした中学校での感想文はすごく良かったです。「長い単語が読めるようになった」「文章も読めるようになった」「音の違いが分かるようになった」など。先生が新しい教材を開発されたら、ぜひわたしにもシェアしてください!

 

7.中学生への指導についても音韻認識から指せた方が良いでしょうか。あまり時間が取れないため、フォニックスから始めていました。

フォニックスは音素の感覚が伸びますので、文字を使わずに音素をつないだり分けたりする練習も一緒にすればいいですよ。あとフォニックスも何文字まで指導していますか?結局単音節で指導を終えていたら、多音節を読んだり書いたりするのは難しいですね。

多くの先生が「時間がないから●●捨てた」と言いますが、捨てるものが読み書き発達に不可欠な物であれば、結局、土台ができていないと崩れます。「できる子もいるし」ではなく、どの子もできるようにするのであれば、これまで紹介した先行研究のデータを真摯に受け止めて教育現場に行かしてほしいと思います。

 

8.フォニックスには例外が多いです。フォニックスや音韻にも限界がある点についてはどう考えていますか。

読み書きの指導をどう体系化していくかという問題ですよね。また音韻認識には限界はございません。言語の音声そのものですので。読み書き指導でフォニックスの規則を学ぶとだいたい6−7割くらいの単語が読めるようになりますが、それも英語圏では何年間もかけながら、同時に、接頭辞接尾辞などの要素、そして不規則な単語を重要度順に段階的に導入します。同時にさまざまな読み練習を行っています。

わたしたち日本人が英語の読み書き指導の何をゴールとしているのか、それを構成するそれぞれの要素に何年くらいどのような順序で導入していくかと言ったことについては、現在の日本の教育のように暗記中心にするのではなく、子どもに負担のないように、難易度の低いものから高いものへ、頻度の高い物から低い物へ、といった配慮が必要です。暗記しなくてはならない不規則語をどのようにどの順序で入れていくのが良いでしょうかね。そもそも、今の教科書を「読める教科書」に変えなくては、フォニックスをしても子どもはその効果を感じることもできませんので、そこからですね。

 

9.フォニックス、音韻認識指導については大切だが一つ一つの発音の違いなどの指導をどのタイミングでどう行うか

わたしはジョリー・フォニックスを使って多感覚で小学校の高学年時期に導入するのが無理がないと感じています(他の方の意見はそれぞれだと思います)。その理由は、日本人児童の音韻認識を調査してきて、高学年ほど音素感覚が高くなること(そのため導入しても格差が生じにくい)、文字に慣れ親しむ下地ができてきていることからです。

bとvなどの違いについては、先生もされているでしょうが、口は楽器と同じですから、体で覚えていくのが大切だと思います。「口、舌の動き、息の出し方」に着目させ、「これとこれは、ここが違うね」という意識付けから始めるのが良いでしょう。不器用な子は時間がかかりますので、あまり誤りを指摘しすぎず、正しい形を示し続けることが大切ですね。

 

10.音韻認識とデコーディングのところが良くわかりませんでした。フォニックスができて音韻認識ができないということが文字操作に障害をもたらすとはどういうことですか。

よろしければ、『英語の読み書きが困難な児童生徒への指導〜音韻認識とデコーディング』ビデオの一部がアップロードされていましたので参考までにどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=Dujtqpi9njk

本では、『読み書きの苦手な子どものための英単語指導ワーク』という本があります。

 

 

齋藤理一郎 先生

たくさんの質問票をいただき、地道な授業実践に手応えを感じております。ありがとうございます。コメントの中に、「高校の授業は固いというイメージがありました」というものがありました。僕自身も、高校教員の集まりに出かけると、「大学入試にどう対応するか?」とか「いやいや、これからは『使える英語』だろ?オール・イングリッシュ!」というような画一的な研修が多いと感じています。ただ、そういう大学進学や産業界の要請(強請?)とは距離を置いた授業ができる定時制高校だからこそ、生徒の実態に寄り添って、柔軟に教室をデザインできているのかな、と思いました。もしかしたら、僕は幸せな教員かもしれません。そんな立ち位置からの、質問票への回答です。皆さんが「英語教育とは!」という呪縛から解放される一助になれば嬉しいです。

 

1.生徒の自己肯定感やモチベーションの低さへの対応は?

自己肯定感の低さやモチベーションの低さは、まず生徒の実状として受け入れます。「キミは、自分自身が認められないんだね。ボクがいくら褒めても、『でも・だって・だけど』で返すものね。聞いてて、こっちが疲れるんだよね」とか、「今、キミがやる気があろうがなかろうが、ボクは自分の授業を進めるよ。ちゃんと取り組めば得があるけど、聞き逃して損した時間は、取り戻せないからね」とか。こんな接し方を続けていると、生徒自身が、「(自分は)このままじゃまずい」と気づくタイミングが来ます。そのタイミングを見逃さず、「承認と称賛」や「損した時間を取り戻させるような教え込み」ができるように、常に準備をしておきます。

 

2.授業が収拾つかなくなった時の対応は?

毎回、生徒と「食うか食われるか」の授業になるクラスを、毎年一つは受け持っています。食われちゃった時は、仕方がないから、茫然としながらも「次回はどうやって食ってやるか」と、生徒の様子を観察します。生徒が「ムリ~!」とSOSを出しているときは、深追いはしない。1年の最後に、クラスが収束していればいいかなぁ、くらいの、緩い気持ちでやっています。いわゆる「授業規律」は示しておらず、授業中に本当に声を荒げるのは、「ヒト・モノに危害を加えた時」と「できる力があるのに手を抜いた時」くらいです。

 

3.「英語を使って何ができるか」「英語を使って何をしたいか」の意識をどう促すか?

学習者ポートフォリオを使っていて、各レッスン(課)の導入時に、「達成目標(このレッスンを学ぶと、何ができるようになるか)」を提示します。各レッスンの終わりには、その達成目標の自己評価とコメント記述で振り返り活動を行ないます。振り返りの際に、生徒の中から「・・・ができるようになりたい」の文言が出てくるので、それを授業にフィードバックします。そうやって、授業で「やりたいことができるようになった」と満足するクラスメートが出てくると、他の生徒からも「自分は、こういうことができるようになりたい」の表現が増えてくるので、それを授業で拾い上げて、全体の意識を向上させます。

 

4.人前で話すのが苦手な生徒のペアワークや話す活動への配慮や評価は?

 日頃から、授業中の生徒の発言は自由にさせて(おしゃべりも授業内容に無理矢理こじつける)、話す活動にハードルの高さを感じさせない雰囲気を作ります。発表(スピーチなど)の際には、教室の前に立たせて、「衆目に晒される怖さ(=教員が常に感じているもの)」を体験してもらいます。中には前に出られない生徒もいるので、そういう子は自分の席でとか、一人で発表できない生徒には、僕も一緒に前に立ってインタビュー(Q&A)形式で発表させたりとか、声が小さい生徒の場合も、一緒に立って復唱してアンプ役をしたりとかのサポートをして、ともかく、それぞれの生徒に「やれる最大限をさせる」ようにしています。評価については、まさにスモールステップで、「自分の発表がある授業を欠席しなければ、その勇気を称える」「自分の発表の順番が来たときに、トイレや保健室に逃げこまなかったことを褒める」「(一言もしゃべれなくても)人前に立って、他人の時間をいただく経験ができたことを認める」ところから評価します。ペアワークについては、「生徒同士でやる必然性」を感じることが少ないので、取り組んでいません。やるとしたら、「(生徒同士のペアで練習したら)ボクと英語で会話しにおいで!」という感じです。

 

5.音韻指導には、どのように時間をかけている?

単語を読むことに苦手意識が強い生徒が多いクラスは、年度当初は1コマ(90分)丸々使うときがありますが、生徒が「自分がつかんだルールで単語を声に出して言う」ようになったら、音韻指導集中の時間は減らして、なるべく英文・長文に触れるようにしています(練習したら、試合に出るイメージ)。で、英文中に「読みにくい単語・句・音のつながり」が出てきたときに、折に触れて音韻指導に立ち返ります。

 

6.文法の定着に向けての取り組みは?

基本的には、「習った表現は、まず『我がこと』として英作文で使わせ」ます(例:過去形を学んだ→「今までにやった悪いことを告白する」、進行形を学んだ→「教室の外で見てきたことを報告する」、不定詞の副詞的用法を学んだ→「ショッピングモールに何をしに行くか」など)。「使役動詞make」の定着について、具体的に質問を受けているので、エピソードを一つ紹介します。前任校で、日本語で「母は私にお皿を洗わせた」という文を示して、「お皿を洗ったのは、誰?」とクラスに問いかけたら、半数以上が「お母さん」と答えました。母語で「使役」が理解できていないで、外国語(英語)で理解させようというのは、難しい。では、「母は命じて」「私が皿を洗った」という状況を、どうやって表現させるかと考えると、これはもう、「使役のmake」を使わずに表現させる。日本語なら、「お母さんに言われて、私は皿を洗った」となるし、英語なら、”My mother told me to wash the dishes.”と(口で言うtellと、無言の圧力でもやらせるmakeの違いはありますが)。発信については、「自分が知っている表現を使って」カバーできます。ただ、書かれている英文”My mother made me wash the dishes.”を、どう受信(解釈)するかは、個々の学習者の認知に頼るところが大きいです。

 

7.プロジェクト学習では、どんな発表をさせているの?

12月の「学習発表会」で、授業企画として生徒の英作文を展示しています。毎年マイナーチェンジをしていますが、基本は「自分が紹介したいモノの写真を見せて、英語で説明しよう(いわゆるShow & Tell)」という活動です。年によって進度が違うので、まず、僕がそれまでに習った文法・表現を使って、「みんなは、ここまで書けるんだよ」というデモンストレーションを見せます。そして、生徒の活動に入ります。まず、「自分が見せたいモノ」をスマホを使って探します。そのあと、文を組み立てるわけですが、すぐに英語は難しい生徒には、日本語で下書きさせます。目的は、「学習発表会で、道行く人に立ち止まって見てもらうこと」と、最初に伝えてあります。生徒は、授業中に堂々とスマホをいじれるのと、自分のことを知ってもらえるのとで、けっこう積極的に「こういうことを言いたい」を表現してくれます。そこで個別に、「今までのおさらい」として、英作文のお手伝いをして、最後は清書します。かける時間は、90分×4コマ。早く仕上がった生徒は、復習プリントや後期中間テスト対策で時間を費やします。このプロジェクト(太フレ生の英語力)の成果としては、生徒はそれまでに学んだことの集大成が得られることと、「自分も英語で発信できる」という成功体験が挙げられます。また、展示を見てくれる生徒や教員には、「うちの子たち(仲間・生徒)は、こんな英文が書けるんだ」という励ましになります。他の人の励みになった、というのがまた、作品を仕上げた生徒の自信と自己肯定感につながります。欲を言えば、作品群を見て、「自分も書きたい!」という生徒が他のクラスから出てきてほしいのですが、まだそこには至りません。

 

8.職場の同僚性をどう育てるか?

これが最も難しい。何が正しいのか分からない英語教育について、それぞれの先生が一家言もって授業を組み立てているので、議論したところで、「勉強になります」と言われたら、「あ、この人は、足並み揃えるつもりはないな」と思えてしまう。シンポジウムでも話しましたが、「自分の授業を通して、生徒は『英語で何ができるか』の成果を出している」を示してみせるのが一番だと思います。同僚の先生方も、困りながらもどうしたらいいか分からず、結果、今のやり方を変えないことで、不安な安定感を得ているところがあるので、「ほぅら、こんなに楽しんでいて、しかも実のある実践があるんだよ~」と揺さぶりをかけて、「どうしたら、そんなことができるの?」と振り向いてもらえたら、しめたものです。焦らず、徐々に仲間を増やしていくのが、同僚性の育て方だと考えています。

 

9.高校入試や入学後の授業での合理的配慮は?

高校入試については、中学からの申し出に応じて、個別に配慮を行なっています。実際に僕が経験したのは、「集団の教室での試験が難しい受検生の別室」「集団の教室では、他の受検生の試験の妨げになる受検生の別室」「聴覚に障がいがある受検生のリスニングの際の座席の配慮」「車イスの受検生の控室から検査室への移動経路と時間の確保」「LGBTの受検生の服装や使用トイレの配慮」「信仰上の理由によるヒジャブの着用」「文化的理由によるピアスの装着」「疾病による帽子の着用」です。これらの配慮には、送り出す側(中学)と受け入れる側(高校)が連絡を取り合う必要があると考えます。授業については、本人と保護者からの申し出に、個別に対応しています(板書の撮影とか、キーボード入力とか、イヤーマフの着用など)。ただ、十分な配慮がなされているかというと、まだ途上です。

 

10.「コミュニケーション英語Ⅰ(CEI)」を一年間受けた後の生徒の姿は?

高校外国語の必修はCEIで終了なので、1年学ぶと、「もう、英語に関して自分がやれるだけのことはやったから、勘弁してくれ~」と(泣きを入れて)、選択科目のCEIIを取らない生徒もいます。高卒に必要な74単位のために、やむを得ずでもCEIIを登録した生徒は、「厳しい道を選んだ覚悟」を持って授業に取り組んでいる様子です。積極的にCEIIを受講するように成長(!?)した生徒は、教科書の内容に批判的にツッコミを入れたり、英作文でネタのような文を書いたり、発表でも笑いを取りにきたりするので・・・他の先生がCEIIの講座を担当すると、困惑するようです(なので、僕が担当するようにしています)。

 

11.カリキュラムで「学び直し科目(コミュニケーション英語基礎)」や上級科目の設定は?

勤務校の昼間部では、「コミュニケーション英語基礎」は設定していません。上級科目は選択制で、「コミュニケーション英語Ⅱ」「英語表現Ⅰ」「英語表現Ⅱ」と「英語会話」があります。また、学校設定科目で、大学進学者対象に文法問題演習に取り組む「英語セミナー」があります。

 

12.研修や自己研鑽は何をやっているの?

専門書を読んだり、ネットで調べたりします。ただ、ネットの情報は表層的なものをつかまされることがあるので、最後は「本」に立ち戻ります。そうやった知識の蓄積以上に大事にしているのが、「個々の生徒の情報収集」です。授業を担当していて気になる生徒は、担任や、他の教科担当や、必要に応じて保健室やスクールカウンセラー、出身中学に、それぞれの「見立て」を尋ねて回ります。複数の「見立て」を統合して、理論ベースで自分なりに「効果的な対策の仮説」を立てて、授業の中で検証・修正していきます。

 

13.ICT機器は活用している?

僕自身は、授業でICT機器は使いません。12月8日の講演中みたいに、突然フリーズして対応する時間がもったいない。スマートフォンを持っている生徒は多いので、授業中に指示して、調べものに使わせたり、板書をカメラで撮らせたりすることがあります。

 

14.ALTとのTTで、ALTにお願いしたい配慮は?

残念ながら、ALTとのTTの経験がありません。ただ、以前(2013年5月12日)、JALT Omiyaの研修会で、”How do dyslexic students see letters & How can they be supported in the classroom?”という講演を行った際、アルファベット圏のALTにはディスレクシアは、「当たり前に教室にいる存在」と受け止められている反応でした。「では、彼ら彼女らへの配慮と支援を」とお願いしたら、「それは、自分たちが受けている業務じゃない」と返されました。もしかしたら、各学校にいらっしゃるALTに、”Would you tell me how we support dyslexic students?”と声をかければ、むしろこちらに有益なアイディアが出てくるかもしれません。

 

15.電子辞書は使わせている?

特に推奨も禁止もしていないので、「持っている生徒は持って使っている」というところです。電子辞書の長所は、(1)アルファベット順(a,b,c,…x,y,z)が分からなくても単語がひける、(2)辞書が単語を読み上げてくれる、(3)つづりが曖昧でも候補が出てくる、というところでしょうか。逆に短所は、(1)調べたいもの(例文や熟語)がワンアクションでは出てこない、(2)つづりが曖昧でも候補が出てくるのでつづりが意識できない、(3)電子辞書に入っているものが生徒向けにはハイレベルなものが多く使いこなせていない、というところでしょう。電子辞書を使っている生徒には、その辺りの注意を個別に行なっています。

 

16.HGS教科書体などを使った際の、大文字のIと小文字のlの区別

講演でお話した活動は、「文字形に注目する」ことがねらいなので、「大文字のIと小文字のlは、似ているね。では、どうやって見分けようか?」と投げかける程度で、深追いはしません。

 

以下、たくさんいただいた質問を、16項目に整理してお答えしました。求めている問いかけは、この回答とは違うかな、と思うものもあります。講演でお話させていただいた通り、僕の授業のねらいは、生徒が「英語ができるようになる」ことよりもむしろ、「英語をやりたいようになる」ことです。そのために必要なのは、学習者自身に「どうすればよいか」を自分で見つけ出せる知識と道具と意欲を備えてもらうこと。そのために、英語ができなくて悔しがる、英語が使えて喜べる、どちらの体験も仕組んで、「やらなきゃ、できるわけがない」を意識づけるのが、高校の英語の授業でやれることだと考えています。

 

 

藤堂栄子 先生

ディスレクシアについて

1.ディスレクシアについての理解がとても低いと思います。保護者が気が付けないことも多い中、日本の教育現場や医療機関での判断は進んでいるのでしょうか?

まだまだ日本では遅れていると思います。そもそもディスレクシアは医療の診断になるケースは少なく、教育で対応するものです。教育現場では教員の方たちの忙しさやこれまでの読み書きに偏った指導により本来の能力を見損なっていることが大変多いです。気づくことができる、スクリーニングができる、アセスメントができる、それに基づいて指導法や教材の工夫に始まり、合理的な配慮をして評価に反映するまでできる人材を必要としています。

 

2.本人の意気込みがそれなりにあれば改善できると思いますが、言語であるためセンスが関係すると思いますが、どう思いますか?

外国語の上達は言語のセンスで左右される部分はありますが、それよりまして動機づけが不可欠と思います。伝えたい、より深く知りたいという気持ちが先だと思います。

 

3.ディスレクシアは治らないとのことですが、もし意欲や必要があって効果的な学び方を身に着ければ、少しずつ言葉を身に着けていくこと(読んだり書いたり)が可能を考えてよいでしょうか

ない足は生えてこないというのと一緒で、どこまで行っても平均的な速度で流暢に正確に音読して理解するのは困難です。読むということは何を指しているのか?足がなくても義足をつけて訓練すれば歩けるようになるし、オリンピックの選手にもなれると同じで、文字の読み書きは読みやすさなどへの配慮でも変わるし、内容の把握ということであれば音で聞いても、マンガや図鑑でも読むことはできます。ICTを使うこともできます。

 

4.帰国子女のような多言語学習者とディスレクシアまたはLDのような発達障害の関連はあるのでしょうか?「帰国子女だから仕方ない(できない)」と学習困難をそのせいにしてしまうことが良くあると思うが、もともと発達的な課題があると考えたほうがいいですか?

 多言語を学ぶと脳は混乱します。鉄則はまずは第一言語をしっかりと身に着けた上で違う言語に取り組むことです。音声言語だけではそこまでの混乱はみえませんが、文字が入ると特に日本語を第一言語とするとアルファベット圏の言語に同時にさらされると混乱は大きくなります。もともとの読み書きの発達課題が顕著に表れることもあります。

 

5.スライド中「音と文字をつなげて操作することは困難だが、読解(理解)はできる」というタイトルの表について4タイプの違いとアプローチ法を教えていただきたいです

4タイプの違い

右上が大多数(8割)の方の読んで理解する方法で、文字を読みながら内容理解が進む方法です。こちらはこれまで通りでも学ぶことができるでしょう。

右下はすらすらと流暢に読めるけれど内容理解につながらないというものです。読めてしまっているので見過ごされがちですが、どのような方法で内容理解につなげるかに配慮しての学習が必要です。程度によりますが、状況を図などを使用して理解する、言葉の意味の理解を促進するなどが考えられます。

左上がディスレクシアの場合で、読むことは困難であるが理解する力はある。読みやすい形に変える、音で聞かせてみる、図で理解させるなど一人一人の程度によって対応は変わります。

左下は読むことも困難さがある上に理解も低いという群です。わかり易い言語に置き換える、図などで状況を理解する、体験させるなどが考えられます。なかなか抽象的な表現の理解が進まないことがあります。スモールステップでのアプローチがうまく行くことがあります。

 

6.外部試験の一つであるGTECではライティングは手書きです。今後CBTの形で行われていくだろう、いやべきだと思うが、PCのスキルが意外に育っていません。スペルと音の結びつき、PCのスキルの向上を考えるとき学校教育の中でどの部署が担当すべきでしょうか?

英国で良かったのは「スタディースキル」の単位があったことです。また、当時はユニットと呼ばれ、現在はベースと呼ばれる部署があり、そこにディスレクシアを中心とした生徒が出入りでき、教材などが揃っています。英語の文章の流れを学ぶ、キーボード操作を学ぶ、マインドマッピングを学ぶ、数の単位を立体などで学ぶなど様々なスキルを身に付けることができます。そういう部署が日本でもできることが望ましいと思います。

 

藤堂自身のこと

7.英単語の習得はどのような工夫をなされていますか?音読をする上で注意をされるのはどのような点ですか?

英単語の習得は文脈の中で習得しています。語源や接頭語、接尾語などから増やしています。ラテン語、ギリシャ語の知識が助けてくれます。音読はしません。すべて耳から先に入っているので文脈でここにあるmから始まるこのくらいの長さの単語はこれだろうくらいの勢いで読んでいます。スペルは今でもpeople のo e どちらが先かnecessary がどこにc で s がいくつかわかりません。ワードのオートコレクトで何回間違えても気づかないくらいすぐに直されています。英国の試験でもスペルは意図が分かればよいという「合理的な配慮」がされます。

 

8.色々な国で様々な言語と文化に触れられてきた先生が学国で一番しんどかったこと、それもどのように克服されてきたのか「こどば」にかかわることで教えてください。

まずは疑問文に対して、日本と英語でYESとNOが逆だということ。同じ言葉で国によって意味が違うことでしょうか?後はラテン語、ギリシャ語、古典、漢語を学ぶにあたって日常的に使われていない言語であるために耳から音が入っていないので意味につながらないことが一番のしんどさです。次はギリシャ語のように文字が違うと途端に習得が困難になります。克服はしていません。が、意味理解に突っ込むことで習得しています。

 

9.英語のテストで読み上げ支援を検討しているが、本人が一対一で受けるのを嫌がるため実施できずに残念。

普通に受けた後に読み上げをして点数の差を実感してもらう方法があります。また、一人にするのではなく、クラス全体に音で聞きたい人どうぞと提供するとスクリーニング代わりになります。一対一ではなく、クラスの中であらかじめ録音をしておいて、イヤホンで聞きながら受ける方法もあります。それでもなお本人が拒否するのであればそれは本人の問題。

 

10.語彙力を伸ばす方法

ラテン語はTempus fugit(光陰矢の如し)のように格言で覚えるとか、tempは時間、天候に関係するのでフランス語の今何時?とか温度とか今日の天気とか芋づる式に語彙が増えます。mission(使節)という言葉はmittere(送る)という送るという意味のラテン語から来ているのでその前にe をつけると排出、transをつけると送信という風に理解していっています。

ゲームのキャラクターの名前とか技の名前などもばかにできません。

 

11.カレンダーについて

英単語カレンダーは配布した資料の後ろにも情報を入れてありますが、RISEで出しているもので、毎日3単語ずつ学べるものです。

音の足し算、語の成り立ち、音の気づきの三つの側面から学べます。

https://shop.npo-edge.jp/ から購入可能

 

12.アセスメント:診断を受けるのにきちんとした診断を下せる医師は非常に少なく、いたとしてもすでに一年先まで予約がいっぱい。アセスメントはどこで受けられるか、どのようなものか?

実際の読み書きの困難さの程度や分野を知り、どのような学習方法がいいのか、どのような教材がいいのか、どのような合理的な配慮をすれば本来の能力が発揮できるのかを知るにはアセスメントが必要です。

その前にクラス全体でできることとして、音声で単元の初めに聞かせ(国語や社会科)その上でまた聞きたい人はどうぞというと、クラスの2割くらいは音声でも聞いた方が内容理解が進みます。また聞きたいという人はニーズがある人です。いろいろな色の紙に問題と答案用紙を刷り本人い見やすい色を選ばせます。必ず使用前、使用後の効果を調べてください。

より詳しい検査をということであれば、NPO法人エッジでもアセスメントをして意見書を出すことができます。https://www.npo-edge.jp/

 

おまけ:疑似体験

フロアから出ていた、周りの理解を促進するためにできることとしてのディスレクシアの疑似体験についてす:

英語でブリティッシュカウンシルやALTの人たちに対して行ったディスレクシアの疑似体験のプログラムを持っています。知っているはずの言葉を読むのがすらすらと行かず、その上音に換えても意味が取れない苦悩などがわかるよう疑似的に環境を作って体験していただけます。

日本語ももちろんできます。多くの教育委員会や学校にから依頼をうけ行っています。是非体験してみてください。

 

 

三木さゆり 先生

現在の英語教育改革の流れの中で、「高い目標」が次々と示され、何が大切なのかがわからなくなっていっているような危機感を持っています。その思いから、今回は「現在の小中学校が抱える問題」についてお話しさせていただきました。ただ、そのために本来一番伝えたい部分である「生徒たちはどこにつまずくのか」「認知の弱さを踏まえた必要な支援とは」についてほとんど触れられなかったことが残念でした。ご質問や感想の中にもその部分についても聞きたかったというご意見が多かったです。

 

1.高校、大学入試でそのような英語力が測られるという現状がある限り、小中学校の教員はそれに向けた指導をしていかざるを得ないのではないか。

全くその通りです。ただ、「入試」や「学力テスト」で求められていることについては、それはそれとして咀嚼したうえで、全員に対してその高いレベルまで要求する必要はなく

どの部分を、どんな形で生徒におろしていくのかについては十分に配慮した柔軟な対応が必要ということなのだと考えています。真面目な生徒や先生たちが追い詰められて苦しまないことを願っています。

 

2.入試を民間試験に丸投げしようとしているが、文科省が民間に対して評価の枠組みを示すまたは示させるべきではないのか。

そもそも民間試験はターゲットとしている受験者も違いますし、それぞれが設定している目標があります。商業英語であったり、留学英語であったり、生活に必要な英語であったり。もちろん独自の採点基準があります。それらを一括してひとつの枠組みの中で処理することが可能だとは思えません。文科省がそれらを束ねていくのは無理でしょう。入試においては「大学生として必要とされる英語力」を測ってほしいですよね。

 

3.UDの授業をできるだけ多くの先生に理解してもらうために工夫、心がけていることは何ですか?

「ユニバーサルデザイン」というと何だか新しい概念のように聞こえますが、実際は、授業の始めと終わりや活動の切れ目をわかりやすくするとか、説明はひとつずつ、短く、具体的にするとか、配布プリントに通し番号をつけるなどの本当に基本的な小さな配慮の積み重ねなのです。「そんなことなら既にやっている」とか「それなら今日からすぐ取り入れられる」と感じてもらうことがスタートだと思います。校内研修などでは10項目のチェックリストを配って自己チェックしてもらい、自分の授業の「くせ」みたいなものに気づいてもらったりしています。

4.特別支援学級の担任としてできることは?

特別支援学級担任としては、彼らの学校生活を支え、卒業後どういう進路に進み、どんな仕事に就くのか…という道筋を本人や保護者の思いをくみ取りながら一緒に考えていくことが使命だと思っています。その中でも、生活の自立、社会性の育成とともに学習の問題が彼らの心の成長に大きな意味を持っているということをみんなに伝えていくことが大切だと感じています。彼らが学ぶためには「何を、どこまで」という学習内容の設定と、様々な配慮や工夫が必要です。そのためには特別支援学級担任には専門性が不可欠です。本を読んだり研究会に参加したり他校の先生方との情報交換などもいいですね。

 

5.支援学級担任として通常学級の生徒をサポート時に、教科担当との連携はどのようにしていますか。

まずは、その先生の授業を見に行きます。その際、気になることはいろいろあったとしても、その先生なりのやり方があるのですぐに指摘せずに、指示がわからない生徒や集中できていない生徒に声をかけるなど、授業の流れにのれない生徒の支援をし、教科担当者のサポートをするように努めています。そういうことを繰り返す中で、授業のどの部分でどんな配慮が欲しかったのかについて具体的に伝えるようにしています。そのベースとしては「通常学級の中にもみんなと同じことをすることが難しい配慮のいる生徒がいる」ということを個人に向かってではなく、教職員全体に対して機会を見つけては発信しておくことが必要です。

 

6.知的障害のある中学生に英語をどう教えていったらいいのでしょうか。

平成30年度卒業の大阪市の公立中学校に在籍する知的障害の生徒のうち、高等学校(全日制、定時制、通信制)または専修学校に進学した生徒は72%にのぼります。支援学校高等部ではなく、入試を受けて進学する道を選んだ彼らは、定期テストや実力テストもみんなと一緒に受けています。そのうちの多くは授業も通常学級でみんなと一緒に受けているのです。知的障害があるからと言って彼らのための特別な授業を受けているわけではありません。そう考えると、そのあたりの生徒たちを「一斉授業の中では抱えられない」と言わずに、一緒に連れていける授業を作らねばなりません。そのための考え方の一つが授業のユニバーサルデザインなのです。授業内容をすっきりさせて、それぞれの段階別ゴールを定めるところに教科の専門性とともに特別支援の視点が必要かなと思っています。

 

7.ダウン症児のような知的障害のある生徒にも英語教育は可能でしょうか。知的障害の児童生徒への英語指導が現在は手薄のような印象があります。

前質問より重度の生徒さんのこととしてお答えします。この場合はまた違う発想で考える必要があるでしょう。そもそも英語は「ことば」であり「新しい世界との出会い」だと思っています。日本語とは違う音、違う文字、ルールを学ぶことでそれが理解できるようになることは楽しいことです。英語を使ったコミュニケーションという観点からできることはたくさんあると思います。小学校で行われている「話す」「聞く」を中心とした「外国語活動」が参考になります。ご指摘のようにこの辺りも本学会でもっと深めていきたいですね。

 

8.英語学習の初期指導としてどんなことをしていますか。

中学校としては、「小学校で英語を学習してきているから」と、基本をとばすことなく初期の指導を丁寧に行うべきだと考えています。

① ローマ字学習…ローマ字と英語の違い、ヘボン式など。ここを押さえておくことは大切!教科書の本文にも最初からたくさん混ざっており、混乱の原因になります。(judo uniform,、Saki(名前)、Mt.Fujiなど)

② 英語の音を楽しむ…子音のみの音、破裂音、こもった音、日本語にない音、カタカナ英語との比較は楽しいです!しっかりと声を出して発声することの楽しさを味わいます。

③ 読み書きの土台作り…文字には音があること、これらの音をつないで単語を発音すること、音さえわかればつづれること。この基本を3~4文字単語で何度も練習します。自分で読めた!書けた!という実感を体験することが意欲につながります。

④ ③のルールで読めない単語もあること…基本単語に多い( you , me , the , areなど)それらは覚えます(ここは仕方がない!)。しかし、音の例外があっても基本ルールを知っていればヒントになることも体験させます。( friend, practice, member, parent … の部分はルールに当てはまりませんが、それ以外の音を出せれば大きな手がかりになります。

中間テストくらいまでは、教科書の内容は「聞く」「話す」程度で軽く触れておくに留め、これらの音声での土台作りを中心に進めます。あまり急いで教科書の文法を説明したり、書かせたりしなくても大丈夫だと思っています。

 

9.一般動詞とbe動詞の使い分けをどう指導していますか。

A9:導入期において一般動詞とbe動詞の使い分けはとても重要な部分です。中1の後半で「現在進行形」が出てくるまでは文の骨組みは「主語」+「動詞」で「動詞はどちらか1つだけ」を徹底します。その前提として、例文のプリントでは動詞だけアンダーラインを入れたり、「この文の動詞は何?」と確認したりして常に「動詞」を意識させます。教科書の本文では両方が混ざって出てくるのでまず動詞に線をひかせるところから。「一般動詞」20~30個ぐらいについては早い段階でいろいろな活動(ゲームや絵カードなど)を通じて覚えさせておくとその後がスムーズにいきます。「一般動詞」が認識できるかどうかは大きなポイントです。疑問文や否定文の作り方も違いますが、この辺りは丁寧に繰り返し練習しないと「わかったようでわからない生徒」はたくさんいます。“Are you play tennis?” とかは「あるある」ですよね。これは「一般動詞」が認識できればなくなっていきます。

 

10.授業の流れを示すスケールを黒板に提示するのは有効だと思いますか?

本時の授業の流れを始めに示すというのは有効だと思います。今何をしているのかということが生徒にも明確に伝わりますし、活動の切れ目がわかりやすいです。自分でも切れ目を意識して授業を展開するのでメリハリがつきます。そうでなければ結構無計画に説明が長引いたりしませんか? ただし、なんでもそうなのですがそれをしなくてはと思うあまりに、そこにとらわれて臨機応変な対応がしにくくなったり、あまり切れ目を細分化して細かく示すとかえって生徒にわかりにくくなったりすることもあると思います。

 

11.LDの生徒は、be動詞、一般動詞、三単現のsなどの問題選択まではできるようになっても、その後の「表現」の問題ができない。指導方法が知りたい。

英語学習の「表現」のゴールをどこに置くかについて考えてみましょう。基本文法にのっとった英文を書かせたいのか、自由な発想を引き出したいのか。どのレベルまで到達させたいのか。例えば「問題集で正答が書ける」「テストの英作文の問題が解ける」などを目標にすると「できない」ということになりますが、I want to eat (       ). みたいなテーマだと面白い発想が出てくるかもしれません。普段リラックスして話してみると面白いことをいっぱい考えていますもの。ただし、せっかく頑張って表現したことに対しての評価をどのようにするのか、評価の問題とセットで深めていきたいところです。

 

12.HGS教科書体の大文字Iと小文字のlの書き方の指導法を教えてください。

例えば現行のNEW HORISON(東京書籍)では、1年生の間はa、g、l、tなのですが2年生からa、g、l 、tと変わっています。その他にも,T、Mなど、装飾部分の気になる文字がいくつかあります。(次の新教科書からは各社とも字体にも配慮されると聞いていますが)この辺りの違いにもつまずいてしまう生徒もいるということにセンシティブな目をもつことは大切ですよね。気になる生徒の、文字を書いているときの様子や書かれたものをしっかり観察すれば必要な声かけができると思います。