発表者一覧
No. 題   名 発表代表者 共同発表者 発表動画  
1 発音口形を「見る」傾聴姿勢と明示的英語音声指導の効果
-聴覚障害学級から通常学級への長期的指導連携の取組み-
河合 裕美   19m22s 発表概要
2 COVID-19下における言語学習障害(LLD)とその英語学習支援 貝原 千馨枝 柴田 邦臣 17m39s 発表概要
3 支援の必要な生徒へのスパイラルな指導 武田 富仁   19m01s 発表概要
4 まだ間に合う?高校英語授業でのUD実践 齋藤 理一郎   16m46s 発表概要
5 学習者の特性に最大限向き合った成果事例報告 前川 未知雄   18m56s 発表概要
6 学びのユニバーサルデザイン(UDL)を活用した通常学級の英語授業における支援と課題 大谷 みどり   21m05s 発表概要
7 ディスレクシアの児童へのフォニックス指導 藤堂 栄子   19m46s 発表概要
8 フィンランドの外国語教員養成 質保証と個への配慮 淡路 佳昌   19m17s 発表概要
9 中学生の単語聴写課題の回答分析
―音韻認識とデコーディング指導のプレ・ポスト比較ー
村上 加代子    24m06s 発表概要
10 英語の読み書きとiPadの活用について 村田 美和 中村 賢治 22m54s 発表概要

 

○発表概要
1 発音口形を「見る」傾聴姿勢と明示的英語音声指導の効果 -聴覚障害学級から通常学級への長期的指導連携の取組み- 河合 裕美    
通常学級で学ぶ聴覚障害児童は年々増加しており,英語教科化前に合理的配慮や指導の手立てを講じることが急務であった。千葉県内聴覚障害特別支援学級で個別取り出し英語音声指導を実践し,事前・事後で英語能力テストを実施した。教師の発音の口形模倣と注視を徹底させる「見る」音素認識指導の結果,児童の傾聴姿勢に変化が見られ,英語音素の知覚・産出能力が向上し,教師の指導能力や指導への意識にも変容が見られた。この指導法を通常学級外国語授業に応用し,5学年児童100名に明示的な音声指導を行った。発音指導の際に教師の口形を一斉に「見る」ことで教室の騒音値を下げ,聞こえづらい摩擦音などの音素を教室内のどの地点からも聞こえる環境づくりを行った。聴覚障害学級担任と通常学級担任は指導計画を共有し,指導連携体制の中で支援を必要とする児童に配慮した指導を行った。その結果,児童の(1)発話者の口形への注視時間,(2)英語能力(音韻認識・音素産出能力),(3)英語学習に対する意識が事前より事後で向上した。聞こえが低い聴覚障害児童の「見る」傾聴姿勢は,通常学級の全ての児童にとっても重要な英語学習方略であることが明らかとなった。

 

2 COVID-19下における言語学習障害(LLD)とその英語学習支援 貝原 千馨枝 柴田 邦臣  
本研究の目的は、COVID-19下で英語を学ぶ際に障害のある児童・生徒へのサポートの必要性を主張することにある。これまでその困難は、ディスレクシアの児童・生徒を中心に論じられてきた。しかし実際には、点字や手話等の教材の少なさにより言葉の学びへのアクセスが制限されている、視覚障害やろう・難聴の児童・生徒などを含む、より広範囲の問題といいうるのではないか。2020年度の小学校外国語教科化に象徴されるように、グローバル化による英語教育の加速は、言葉を学ぶ際に障害のある児童・生徒も、英語力による評価に巻き込んでいる。本研究では、英語を学ぶ際の障害を「言語学習障害 Language Learning Disabilities:LLD」と捉え直し、社会的課題として把握してきた。その傾向は、COVID-19下の休校によって強められている。これまで対面による丁寧な学びを積み重ねてきた障害のある児童・生徒にとって、長期休校はまさに「学びの危機」であった。2020年に現出したのは、LLDの子どもたちの学びの機会の喪失だけでなく、急速なオンライン化・EdTech化が、格差をさらに助長しているという克服し難い状況である。報告では、COVID-19下でのLLDの児童・生徒の英語学習状況について報告し、必要なサポートについて提案したい。

 

3 支援の必要な生徒へのスパイラルな指導 武田 富仁    
支援が必要な生徒に限らず、既習事項の定着を図るためには、スパイラルな形で何度も言語材料に触れることが必要です。生徒の特性を理解し、定着を図るためには、どのような指導が適切であるかを提示したいと思います。
例えば、スモールステップで学習意欲を醸成するにはどのような授業展開が考えられますか。生徒の興味関心に応じて、作品作りなども効果的ですが、どのようなアプローチがあるでしょうか。そのようなことを一緒に共有できたたらと思います。
また、教員のちょっとした心がけで生徒の取り組みが変わってきます。キーワードのみですが、生徒に「ながら作業」はさせない、聴覚情報の整理、情報の視覚化、指示を具体的になど、生徒の特性に応じて配慮できることは多いです。私自身授業中何気なくやっていたことが、もしかしたら生徒にとってはとても負担だったのではないかと反省しています。
生徒は授業を受けて一度で理解することはやはり難しいです。使いながら、間違いながら少しずつ言葉は身に付いていきます。私の失敗談などを交えながら、お伝えできればと思います。一緒に授業を楽しく考えましょう。

 

4 まだ間に合う?高校英語授業でのUD実践 齋藤 理一郎    
本発表では、学習面で様々な課題を抱えながら高校進学してきた生徒たちを「いかに苦手な学習に取り組ませるか・いかに自分の学力の現状と向き合わせるか」の授業実践を報告する。
小学校で外国語活動が始まり、さらに英語が教科化した今、英語の読み書きが苦手な子どもたちに対する支援も早期化、低年齢化が進んでいる。支援の手段についても、音韻認識や視機能、協調運動など、トレーニングの数々が蓄積されている。それぞれの支援によって、自分自身の学習スタイルを確立した子どもたちの事例を成果として見聞きすることも増えた。
問題は、何らかの事情で、そういった支援に巡り合うことがないまま義務教育を終え、高校進学してきた生徒たちの学習姿勢である。高校の教室は、学習が苦手なことによる自己肯定感の低い生徒と、逆に苦手な学習に向き合えずに居直る生徒が混在している。この生徒たちにとって、おそらく「授業」という形で英語を学ぶ最後の機会となる高校の教室の、「ありのままの息遣い」をレポートする。
授業中のクラスの反応に戸惑う先生方や、これから教職を目指す学生に、「教壇で生徒の視線を浴びる覚悟」を感じてもらうのが、本発表の目指すところである。

 

5 学習者の特性に最大限向き合った成果事例報告 前川 未知雄    
本発表者は、一般的な英語学習者とは明らかに違う困難を抱えた受講生をサポートする上で、臨床心理士・ディスレクシア専門家・大学教授などのサポートも活用し、通常の学習者とは異なる個別教材・指導法を実践し成果を上げてきた。本発表ではその実践報告を行い、困難を抱えた学習者を効果的にサポートする上で普遍化できると考えられるポイントを2点に、また今後の検討課題を1点に集約し発表を行う。本発表の中心となる事例は50代後半の男性で、学習開始時はTOEIC240点であった。他学習者と比べて上達のスピードが明らかに遅く、レッスン受講中にディスレクシアであると正式に診断が下ったが、約1年半の指導の結果、勤務先で要求されていた海外赴任基準点(TOEIC640点 ※実施団体の特例処置として制限時間延長措置有)を達成した。指導においては、①学習者の癖を反映したオリジナル教材作成 ②約60日間の連続レッスンなど極端な反復練習 に一定の効果があったと考えられる。本研究発表により、同じような困難を抱えた学習者指導に携わる先生方にとっての議論の材料となれば本望である。

 

6 学びのユニバーサルデザイン(UDL)を活用した通常学級の英語授業における支援と課題 大谷 みどり    
通常学級の英語授業において、様々な特性を持つ子どもたちに、どのような支援・工夫が出来るだろうか。個別や取り出しではない状況で、学びのユニバーサルデザイン(UDL)の枠組みを参考にしながら取り組んだ小学校外国語、単元を通しての中学校英語の授業をもとに、UDLの「取り組み」「提示」「行動と表出」(バーンズ亀山, 2018)におけるオプションの工夫(支援)と、支援の背景にある児童生徒の特性、そして支援を提示する際の課題等について考察する。具体的なオプションとして、小学校での異なった素材を使ったアルファベット文字の提示や、中学校での板書の工夫、書くことが苦手な中学生へのiPadを使っての語順指導、ワークシートの選択肢等、取り組んだ児童生徒の様子と学びとともに、支援の観点を含めた指導案の工夫(しまふシート)についても紹介する。
・バーンズ亀山静子(訳)(2018)UDL学びのユニバーサルデザイン:クラス全員の学びを変える授業アプローチ、東京:東洋館出版社

 

7 ディスレクシアの生徒へのフォニックス指導 藤堂 栄子    
NPO法人エッジではディスレクシアと診断されている小学校高学年の生徒にジョリーフォニックスを使用してフォニックス指導を行っている。
3月、7月、12月で各3日をかけてグループ1から7の42音を指導している。
ディスレクシアの特性に対してジョリーフォニックスが有効であった例を挙げて発表する。

 

8 フィンランドの外国語教員養成 質保証と個への配慮 淡路 佳昌    
発表者は2019年4月から1年間、フィンランドのタンペレ大学客員研究員として、市内の基礎学校や高校での授業や、大学の教員養成課程を観察してきた。本発表では、そのうち外国語の教科担当免許のための教育実習に焦点を当て、フィンランドにおける教育実習の様子を紹介する。
実習の授業は日本と同様に通年科目として開講されているが、その内容はかなり異なる。実習は秋と春の二期に分かれ、それぞれ8週間の実習を大学の実習校で行う。本研究では、秋実習の8週間、2ペア4名の学生と、その指導教員2名を対象に観察を行った。授業観察の延時間は17時間15分、振り返りの観察時間は8時間15分であった。実習の終わりに外国語教科担当の実習に取り組む学生に対して質問紙調査を行い、実習に対する学生の考え方や感じ方を調査した。
本発表では、タンペレ大学における外国語教員の実習の制度や内容の概要を紹介するとともに、実習生の授業や、指導教員を交えての検討会の観察に基づいて、実習生の取り組みや指導教員のアプローチなど、フィンランドにおける教育実習の様子を報告する。その中から、我が国における外国語教員の質向上のための示唆を得ることを目指す。

 

9 中学生の単語聴写課題の回答分析 ―音韻認識とデコーディング指導のプレ・ポスト比較 村上 加代子    
英単語の読み書きスキルは英語学習者にとっては最も基本的かつ必須のスキルであるが、多くの中学生が「英単語が覚えられない」ことを強く負担に感じている。そもそも読み書きにはその前提条件として複数の認知スキルの獲得が指摘されている。文字の形や音などの知識だけでなく、英語の音韻を正しく知覚・分析する力(音韻認識)や音声を文字に変換したり文字を音声化するスキルの獲得が基礎的な読み書きには欠かせない。本調査では、公立A中学校の1年生を対象に「音と文字の対応習得」を目的とするデコーディングと音韻認識指導を年間20本のオリジナルビデオ教材を用いて行った。指導プログラムの前と後に、①アルファベット聴写課題、②単音節単語の音素分解課題、③単音節単語の聴写課題を実施し、回答結果を比較した。さらに、単語聴写課題の総合得点の上位と下位9%範囲の生徒を抽出し、実際のスペリング内容を8つのパタンに分類し、両群の誤答内容の質的差異を分析した。その結果、両群には回答に質的な違いがあること、そして両群ともに指導の前と後では誤りのパタンが変化していることが確認された。

 

10 英語の読み書きとiPadの活用について 村田 美和 中村 賢治  
本研究では、公立中学校における英語の通常授業において、3年の全生徒がiPadを活用し、English 4 Skills等を3カ月間活用した様子について報告する。本実践は、GIGAスクール構想によるICTの導入に先駆けて行われた実践であった。英語の読み書きに特化して、URAWSSⅡ及びURAWSS-Englishを用いて対象生徒らの日本語及び英語の読み書きの力を測り、iPadやICT教材に対する意識等を分析した。
対象となったのは通常学級の生徒らであったが、読み書きが必ずしも得意な生徒ばかりではなかった。特に難しさのある生徒は4名おり、少々難しい生徒を入れた8名の生徒について、そうではない生徒の結果と比較を行った。
質問紙調査においては、8名中6名は、4技能の内最も得意なのはリスニングであると回答していた。一方、成績が良かった生徒の群は、同じ質問に対し、ライティングであると回答した生徒が多かった。また、iPadの中で良かったと思う機能については、8名の生徒は、入力方式が多様であった部分、すぐに単語が調べられる部分、音声読み上げ機能について、選択した割合が高かった。
iPadは通常の学習方法の選択の幅を広げるという意味では、読み書きが難しい生徒に有効なツールとなる可能性が示唆された。